能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.15をweb先行公開!!

買わりばえのしない私 vol.15
今月の能町さんのお買い物日記は北海道の思い出です。「中年Tシャツパニック」だなんて、おそろしくもしっくりくる言葉を生み出してます。でも年齢や体型に関わらず、なーんかTシャツが似合う人・似合わない人っていますよね~。

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2024年05月24日
千代の富士のTシャツを買った
 Tシャツのサイズが分からなくなってしまった。
 自慢のつもりはないのだが、20代前半頃の若いときは問答無用でいちばん小さいサイズ、と思っていた。その頃はガリガリだったし、チビT(死語)が流行ってたのもあったし、小さいことこそ正義、と思っていた。
 あと、当時はなにより「インしない」のが大正義だった。「Tシャツはパンツインしない」は、「人を殺してはいけない」くらいの大正義だった。しかし今では、シャツ類はインするのがよい、という流れが出てきてしまっている。これ、私にとってはとんでもない事態なのよ。これまで悪いとされていたことが、急に180度変わってしまう。戦後ってこんな感じだったのかな?(不謹慎)
 そんなわけで、中年Tシャツパニックが起きている。太って体型もすっかり変わってしまって、サイズもどうしたらいいか分からないし、買ってもどう着たらいいか分からない。というか、柄やデザインからして、もうどんなTシャツ買ったらいいかまるごと分からなくなった。Tシャツを着ない、という選択肢も難しい。夏をほとんどTシャツに頼ってきた、カジュアルと言えば聞こえはいいがただのオシャレサボり人間なので、ノーTシャツで夏を制覇するのはハードすぎる。
 こんな時に優しいのは「ネタ的なヤツ」である。
 最近この連載はなかば旅日記みたいになっていてアレだけど、5月は仕事で、北海道の福島町というところに行っていた。ここは、千代の富士の出身地である。千代の富士ってアラフォーより上なら説明不要だけど、それより下だと厳しいよねえ。ファッション誌的に簡単に説明すれば、秋元梢ちゃんのお父さんである。小さな大横綱。最近、あまりの肉体美と顔面美により写真が唐突にネットでバズった(本当)という、80年代の大スターである。画像検索してみてください。
 大相撲マニアで大相撲の仕事も多い私は、仕事と趣味を兼ねて福島町の「横綱千代の山・千代の富士記念館」というところに行ったわけ(千代の山というのは千代の富士の師匠に当たる横綱で、この人も福島町の出身)。記念館を見て満足して、グッズを見た。するとそこに、千代の富士のTシャツがある。
 こういうのがもはや最近助かるのである。柄としては突飛すぎてダサくはないし、妙にオモシロに振りきってるわけでもないし、でも「何それ?」って言われそうなラインではあるし。なんと8800円もしたのでそうとう悩んだのだが、福島町ってのがまたすごく行きづらいところなもんで、ここでしか買えなそう、という希少性も手伝って買うことにした。が、さあ、ここでサイズをどうしたらいいか。
 グッズコーナーなので、試着室はない。S~XLまである。どうする。
 私には見栄があった。男女共通サイズだろうし、ビッグサイズよりは多少フィットしているほうがいいかもという、昔の感覚の名残もあった。それで無謀にもSを選んだんだ私は。そういう、古いやつなんだよ私は。
 Sだと力士のように腹が明確に出てしまうと、今回の件でしっかり分かりましたね。Tシャツを着て撮られた写真を見て私は心で泣きましたよね。もう今後私はあきらめてLを買うことにしてください。


2024年5月28日
マルセイバターケーキを買った
 そんな北海道からの帰り、空港のおみやげワンダーランドで私は六花亭「マルセイバターケーキ」というのを見つけてしまったの。
 「マルセイバターサンド」じゃないの。「ケーキ」なの。いつこんなの出してたの? 六花亭ファンの私だけど、レーズンがちょっと苦手なので「サンド」のほうはあまり好きじゃない。そんな私のために作ってくれたみたい。あまりにも私の好みだから、きっとそう。かわいい黄色い包装で、スポンジにクルミ入りのクリームが挟まっている。見た目も味も完全に私好み。「サンド」を超えていくポテンシャルがあると私はにらんでいる。
 Tシャツのサイズの話をした直後にすぐ甘いものの話をしてしまった。してしまったね。




Illustrator/Takayuki Kudo


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