能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.14 本誌発売と同日公開!!

買わりばえのしない私 vol.1４
新たな肩書きが加わった能町さんの消極的な意気込みを感じました。そして、変な模様のケーブルとか、あったらいいなと思います。旅公演の先々でのお買い物日記、楽しみにしてます！

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2024年３月13日
無印の巨大なバッグを
買った
　この連載を熱心に読んでいる人がもしいたら、私の心境の変化に気づいているかもしれない。文章からにじみ出ているこの気持ちがあなたに伝わるか。
　私は文章を書くのが面倒くさくなっている。やりたくないよ、となっている。文章の端々から匂ってこないか、私の志の腐臭が。
　分かってる。これは本気のアレではない。ちょっとした、まあ、社会人としての反抗期のようなものである。たぶんね。私が文章を書くような仕事として事実上独立したのが07年くらいなので、えーと、17年経っている。え、マジか。17歳だとしたら反抗期はほぼ過ぎた年齢じゃん。遅れてきた反抗期ってことでいいかな。もうすぐ大学受験ですか。まいったね。
　いつまで経っても本題に入らない。つまり私は文章を書く仕事に飽きていて、そういうんじゃない仕事をしたくなっている。その一環として、ミュージシャンになります。
　断言してしまった。でも、ちゃんとライブをしてギャランティも発生するので、これはミュージシャンといっていいでしょう。
　伊藤ゴローさんという随一のギタリストとご縁で組むことになり、私は歌詞を書いたり歌ったり、ついでにグロッケン（鉄琴）を叩いたり、ほかにもちっちゃな打楽器を叩いたりします。グロッケンは見た目はちょっとおもちゃみたいだけどかわいらしい音が鳴るソナー製のものを手に入れました。
　しかし、私にはそこそこ大きいこの鉄琴を持ち運ぶバッグがない。私が持っているバッグの中では、何かに使えるだろうと思って取っておいたデカ紙袋くらいしか役に立たない。かなり大きくて、ある程度丈夫で軽いバッグが欲しい。
　そんなときはとりあえず無印に行ってみる。
　すると、理想とするものが、あまりにもあっけなく見つかる。さすが無印。
「ジュート・マイバッグ」なる名前で売っている、ジュート製でマチのある肩掛けトートバッグ。Sheが買ってもYouが買ってもマイバッグ。Ａ３サイズで横幅46センチもあり、499円。
　は？499円!?
　無印、こんなに安かったっけ？紙袋じゃないよ、ペラペラの布でもないよ、ジュート素材でそれなりに丈夫そうで相当いろんなものが入る、これ、こんなに安いの？
　なんだか妙にお得な気分で私はすぐ買って帰った。いざ使ってみるとコレもう一つお得がありまして、荷物をいろいろ入れて家に立てて置きっぱなしにしてると、ジュート材で表面がガサガサしているもんで、うちのかわいい小町が爪とぎをバリバリやるんですね。それでも全然傷つかない。お値段以上ですよ。そんな目的で売ってないだろうけど猫飼いにはおすすめのバッグですよ。ていうかライブは来週です。こんなどうでもいいこと書いていないで練習しなきゃダメです。反抗期なのでそっちのほうが大事です。

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2024年４月20日
USBケーブルを買った
　神は細部に宿るというよい言葉がありまして。これはもともと美術や建築の分野で、作者がこだわったディテール（細部）にこそその作品の神髄が宿っている、みたいなことらしいんですが、私は自分の持ちものでもひそかにそう思っている部分がありまして、たとえばUSBケーブルとか、ただの白や黒にしたくないっていうのがある。
　iPhoneの電池はすぐ切れる。私はモバイルバッテリーではなくUSBケーブルと充電器アダプターを持ち歩いているのだが、最近ケーブルを紛失してしまったのだ。これぞ細部。以前からこのケーブルに私は愛を注いでいなかった。どこで買ったのかも判然としない、使い古して汚れた、白い何の変哲もないケーブル。なくなったのをいいことに、私は愛せる「細部」を買おうと思ったね。
　ところがこんなケーブルに並々ならぬこだわりを持つ人なんてそんなにいないらしい。ほとんどは白か黒で、色がついていても大したバリエーションがない。妙にパステルカラーが多い。もう少しビタミンカラーのケーブルとかあってもいいと思うんだけどそんな細部は誰も必要としていないのか。
　結局狭い選択肢から選んでパステルイエローのUSBケーブル（50センチ）を買ったんですが、でもこの子については私けっこう愛せそうな気がしているんですよ。持ちものできるだけ愛していたい。私はミュージシャンなので、パステルイエローのUSBケーブルの歌を作ります。～黄色いキミは体くねらせて（以下私設JASRACの取り締まりにより省略）




Illustrator／Takayuki Kudo

●la farfa2024年7月号より。