能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.12 本誌発売と同日公開!!

買わりばえのしない私 vol.12
能町さんの旅先ノリノリショッピングぶりが冴えてる! 高知の赤い店は、はるばる行く甲斐があるお店のようです。
ノートの話、担当も共感〜〜! 紙に書く感触が脳を刺激するのかも!?

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2024年2月24日 
キモかわいい
ピアスを買った
 高知に行った。高知県西部、周りに何もない小さな無人駅の「影野」から歩いて1キロほどのところの田んぼの真ん中に、毒々しいまっかっかなヤバい小屋がある。そこは「太陽の眼」というお店なのだ。近所にコンビニすら見当たらない、歩行者といえば近くのおうちの方が田んぼ仕事に出ているくらいしかいない場所で、古着やアクセサリーやレコードや本を売っている。世にも奇妙な物語の世界というか、よく言えばバッドエンドの童話の世界というか(よく言ってないぞ)、そんな存在感。そんなお店を仕切る今井さんもファッションを含めて絵本の登場人物のようである。だんなの森田さんはノイズミュージックをやっている。私は絵本にノイズミュージックが出てくるのは見たことがない。
 そのどうかしているお店に、私はこないだ行ってきた。ここで行われるちょっとしたイベントに出演する用があったので、はるばる飛行機と電車と徒歩で高知県高岡郡まで行ってきた。
 イベントより前にちゃんとお店のなかも見てみたかったので、教えられた入り時間の1時間前にお店に着いた。
 とはいえ、影野駅には片方向につき1日5本しか列車が来ないので、この便を逃したら次は約3時間半後になり、イベント出演も不可能になる。どうしたって1時間早く来るしかなかった。
 で、そんなのんびりした場所に揃えられた古着類やアクセサリー類に私の食指が動かないわけがないのだ。
 私はイベント開始前に、針金をぐにゃぐにゃに曲げた感じのキモかわいいチェムチェミのピアスと、鳥が舞ってる造形の、パルナートポックの正統かわいいピアスを手に入れた。
 というかそんなんじゃ済まなかった。ラブクライのレコードも試聴させてもらって買ったし、星野藍さんのアブハジア(未承認国家)の写真集も買った。古着も買うか迷う。ここは欲しいものだらけなのである。だから言ったんだ、ここは世にも奇妙な物語の舞台だと。ここで欲しいものを我慢できずに買っているうちに私の顔がグニャってなって顔の真ん中に影が差して、最終的に喪黒福蔵に「ドーン!!」って言われるシステムなんだよここは。世にも奇妙な物語と笑ゥせぇるすまんが混ざったよ! ヒィ! 物を買いすぎてキャリーカートが閉まらない。あふれてくる! 助けてくれ! ドーン!!
 キャリーカートは踏んづけたら閉まった。ありがとうございました。また悲鳴を上げに行きます。


2024年2月26日
小さなノートを買った
 仕事や勉強が進まないときは、自分のやる気やメンタルのことはおいといて、いろんなもののせいにしたくなりますよね。したくなるというか、これは「いろんなもののせい」です。確定です。
 私は先日からちょっとした仕事がどうにも進まなくて、いや進まない以前の問題で最初の第一歩の思いつきすら出てこなくて、大いに困っていたんですよ。もうこれは何かのせいなんですよ。
 ふだんパソコンに向かって仕事してますから、まず、やはりパソコンが悪いんじゃないかと。こいつが私の発想力を邪魔しているんじゃないかと。それで、スマホに向かって考えてみることにしました。
 スマホのメモ帳に向かってみてもどうにもいいアイデアが思いつかず、これはやはりスマホが悪いんじゃないかと。
 パソコンも悪い、スマホも悪い。もうこれはデジタルが悪いんじゃないかと。液晶画面に向かっていることが私の脳に悪影響を及ぼして創造性をすべて奪ってるんじゃないかと。
 ということで私は急にアナログになることにした。小さなノートを買った。安物じゃなく、ここはモチベーションアップに効く、多少オシャレな、紙質も触ってうれしくなるようなやつ。ノートにペンで書けば、そのプリミティブな作業によって、私のクリエイティビティは誰に乞われることもなく大量に漫画を描いていた小学生の頃に戻り、如実に復活するのではないかと。
 そんな簡単なもんじゃないだろうと思われそうだが、そんな簡単なもんなのであった。ノートにしたら今までで1つも出なかったアイデアが5個出た。以上になります。嘘みたいにハッピーエンド。




Illustrator/Takayuki Kudo


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