能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.09をweb先行公開!!

買わりばえのしない私 vol.09
今回も能町さんったら、またも旅ネタ。担当編集としては、北海道のお土産は六花亭や白い恋人よりも断然千秋庵のお菓子です! なぜなら当時の恋人が私に似合うよと言ってプレゼントしてくれたから……(*^_^*)

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2023年9月24日
き花を買った
 今度は札幌に行ってきた。日本のいろんなところに行ける仕事でよかった。
 仕事のあとは新千歳空港から飛行機で帰るわけですが、空港には早めに行けるように日程を組んでいる。なぜって、新千歳空港はおみやげ屋が日本一充実した空港だからである(私調べ。異論は認める)。
 この空港ではおみやげ屋をめぐっていると迷子になるくらい、とんでもない数のおみやげ屋があって、通路が複雑にはりめぐらされている。この迷路をどうにか抜けると、おそろしいことに旅行客の両手には大量のおみやげが……という空港側の魂胆にハマる客が続出。苦情が殺到している(ウソ)いわくつきの空港である。
 しかし私は特に買うものに迷うわけではなかった。単に目的のものをきちんと探し当てるために、早めに来たのである。
 私は両親が北海道民なので、子供の頃から北海道のお菓子を食べて育っており、人体の6割くらいが六花亭、1割が石屋製菓、1割は柳月、1割が壺屋総本店、1割はやさしさでできている。六花亭はともかく、あと、やさしさはともかく、ほかの会社は知らないよと言われそうである。だから今から紹介するつもりである。でも文字数が足りないので、最後の壺屋のことだけ紹介する。
 みんな北海道に行ったら六花亭の何かか、白い恋人(これが石屋製菓です)を買うんでしょ。うん、もちろん両者ともめっちゃおいしいよ。でも私はそこに壺屋総本店の「き花」が割って入れると思うの。き花が全国的には全然知られていないってことに私はずっとじれったい思いでいるんですよ。
 き花はね、アーモンドの香ばしいガレットに、口どけのよいクーベルチュールホワイトチョコレートをサンドしました。北国のダイヤモンドダストをイメージした旭川を代表する銘菓です。以上、公式サイトからコピペしました。クッキー状のものにホワイトチョコが挟まっているという構図は白い恋人と同じなんですが、このクッキー状の部分がびっしりつぶつぶのアーモンドでできていて、香ばしくて最高なんです。単純においしさだけで言ったら北海道銘菓の中で十分一位を取れる器だと思う。それなのに、ああ、それなのに、ずっと彼女は、六花亭の並み居るグループアイドルと、白い恋人という華のあるソロアイドルの影に隠れ、やつらに業界を独占されているわけ。私はき花を推しつづけて40年(マジで)。もうそろそろ日の目を見てもいいと思うんだよ。空港でも探すのにそこそこ時間がかかったよ。これを読んでいる人は、北海道に行ったらまずき花を買うように!
 ということで今回も私はき花を買って、流行の最先端を行く東京人たちに地道に広める作業をしたのである。まだ結果は出ていない。


2023年10月1日
ヘアゴムを買った
 ごくふつうの、安い、最初からわっかに整形されているヘアゴムを買った。
 ヘアゴムは、一応私も使うけれど、最大の目的は私が使うためではない。かわいい我が子、猫の小町のおもちゃである。
 去年まで小町はペットボトルのキャップに夢中だったが、少し成長して大人びたのか、オシャレに興味を持ちだし、ヘアゴムで猫っ毛をアレンジしたり……することはなく、ヘアゴムで一人でホッケーをして猛烈に走りまわるのが今年の大ブームとなっている。
 ヘアゴムをちょい、ちょい、チョップ! ヘアゴムシューン! ダッシュ! チョップ! 爪に引っかかる! 手をブンブン! ヘアゴム飛ぶ! ダッシュ! チョップ! ガジガジ! ビヨーン! またチョップ! 冷蔵庫の下シューン!
 ということで、冷蔵庫の下、あるいはクローゼットの奥、はたまたどこだか分からないところにヘアゴムがすごい勢いで消え、消費されていく。もうしかたがないので小町のために、大量消費覚悟でヘアゴムを買うことにしたのだ。ダメ親である。毒親である。こんなことではきっとろくな子供に育たない。しかたがないので責任を持ってずっと親元(私の元)から離さないつもり。




Illustrator/Takayuki Kudo

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