能町みね子連載「かわりばえのする私」vol.18をla farafa1月号発売日に公開!!

かわりばえのする私 vol.18

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 子供の頃、メガネはいやなものです。これはしょうがない。子供は何かというと他人をからかうことばっかり考えてる。クラスの誰かがメガネなんかかけはじめた日にはもう大ニュースです。
 しかし小4の頃、後ろのほうの席からは黒板の字が読めなくなってしまい、私は不本意ながら、メガネを作らざるをえなくなってしまった。かけるのが嫌で嫌で仕方ないので、とにかく着用時間は最小限。授業中だけかけて、授業が終われば最速で外す。
 私はなまじ成績がよく、当時はガリガリに痩せていて、運動が大の苦手だったので、「メガネをかけてる子=ガリ勉、マジメ」みたいなイメージにぴったりでした。友達のお母さんは、「やっぱり勉強をたくさんしてるから目が悪くなっちゃったのね」みたいなことを平気で言ってきます。ほんとにデリカシーがない。子供は繊細なんだぞ! 大人になった私は子供に絶対そんなこと言わないからな! 私の父も母もかなりの近眼だから、私のもたぶんただの遺伝。「たくさん勉強をしたから」では断じてない……けど、子供だから、知らない大人にそんなこと言えない。
 無情にも視力はどんどん悪くなりました。小学6年くらいで、視力検査のいちばん上も見えるかどうか怪しくなってきました。健康診断のときは、順番待ちをしているうちにどうにか両目で見て最上段だけ覚えておくという卑怯な手段を使い、記憶力によってその恥ずかしい瞬間を乗り越えるようになりました。だって最上段が見えないなんて言ったら、クラスメイトの間に「えっ!」って空気が流れるじゃないですか。そういうわけにはいかないの。また適当に「勉強のしすぎ」とか言われるんだから、マジで勘弁。
 中学校に上がると、もう日常生活すら怪しくなってきた。メガネは近視の度が強くなればなるほど、レンズの外側がぶ厚くなる。ちびまる子ちゃんの丸尾くんってぐるぐるのメガネをしてるでしょ、あれは漫画だからじゃなくて、度の強いメガネって本当にあんな感じになるんですよね。ぶ厚いメガネを少し斜めから見ると、レンズの屈折のせいなのか、フレームが三重四重に内側にダブって映って、まさに丸尾くんメガネです。もう、あれがいやでいやで。しかも、度が強いと、前から見たときに目が小さく見える。顔まで変わるなんて絶望的。
 しかし、そこに現れた救世主はコンタクトレンズである。
 コンタクト、子供の時は正直怖かった。でも、「目の中に何か入れるなんて絶対痛いじゃん!」VS「あんなメガネで毎日過ごすくらいなら背に腹は代えられないじゃん!」の対決により、背に腹は代えられないじゃんが圧勝。私はソフトコンタクトを身につけた。
 生活便利度が10ポイント上がった。日々の自信が20ポイント上がった。見えづらいままほとんど裸眼で過ごしていたので客観的には何も変わっていないけど、昭和の少女漫画の「メガネを外すと意外と美人」を脳内だけで達成した気分になってドーパミンが1リットル出た。
 ほんのちょっとの勇気でこんなにもQOLが向上するとは。考えてみれば私の人生初のファッション的悩みはメガネだったかもしれない。コンタクトレンズ最高!
 そして、私はメガネを家でしかかけなくなった。どんなに目が疲れてもおうちの外ではコンタクト。コンビニ行くだけでもコンタクト。オールでカラオケしてもコンタクト。水分飛びきったんじゃないかってくらい目が乾いてもコンタクト。無茶したのがたたったのか知らないけれど、ソフトコンタクトをすると目やにが止めどなく出るようになり、途中からハードコンタクト派になり、そして今に至る。
 コンタクトによってメガネへの大いなるコンプレックスが抜けると、いつしか伊達メガネなんか買うようになってしまった。コンタクトをしたうえでメガネをすれば、目が小さく見えたりしない(当たり前)。メガネもいいじゃない、と、やっとやっと思えるようになった。長い道のりだった……。
 メガネってとても繊細なアイテムで、ミリ単位で少しフレームが太くなるだけでまるで印象が違うし、色つきのフチなんて、色つきの服を着るよりも数倍印象が変わる。特に私の場合は、2つのレンズの間のブリッジの長さによって似合うか似合わないかがかなりはっきり分かれる。あくまでも自分の基準だけど、私は極力ブリッジが長い方が似合う、と思う。ぱっと見でかわいいフレームだと思っても、ブリッジが短いと私の顔には合わないのだ。
 なぜこんなふうに分析できたかというと、めちゃくちゃたくさんメガネをかけてみたからである。メガネ屋さんで一度片っ端からかけてみるといい。たぶんどれがしっくりくるか分かるから。
 私はきっとそれまでメガネをファッションアイテムだと思えてなかったんだ。初めから気取って「アイウェア」って言っておけばよかった。

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Illustrator/Takayuki kudo


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