能町みね子 連載「かわりばえのする私」vol.14を公開!

かわりばえのする私 vol.14

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 東京ってオシャレなところですよ。それは誰もが認めることで。
 そもそも私は「自分がオシャレなんてする資格がないよ……」とウジウジしていたマイナススタートの人間なもんで、上京していっちょやったるで~! ワシャ東京をしゃぶりつくしたるんじゃ~、ファッショナブル最先端TOKYOライフにどっぷり浸かったるんじゃ~、という気持ちはなかった。単に、親元から離れて一人暮らしがしたい、そして大学が東京になった、だから(ちょっと怖いけど)東京で一人暮らしをするしかない、となったんであって。できれば垢抜けたい、でも本当にオシャレなところは怖い、という二つの意識に挟まれた(あと、不動産屋の口車に乗らされた)結果、上京したのに畑の中のアパートに住むということになってしまったのである。
 話を戻しまして……私はかつて(実家時代)、常磐線ユーザーでした。たまに何かの用で実家から東京方面に行くとき、北千住あたりから先の車窓が怖かったんですよね。松戸(千葉県)あたりまではまだ畑とか空き地とかが見えるんですよ。でも、そっからから先はもう、びっしり、駅から駅までの間が全部「家」なの。田んぼも畑も林もないわけ。インドア志向のくせに緑の多い風景を好んで育ってきた私は、この全部の家に人が詰まってるの? こんなところで暮らしている人がいるの? って、憧れるよりはちょっとおびえていたんです。
 常に隣近所、同級生とお勉強やオシャレで競争して、ちょっと気が向けば今から渋谷とか行けちゃう感じの厳しい環境(?)に身を置いて生まれ育った子なんて、とんでもないオシャレに決まってる、こえぇ、と私は思ってたわけ。なんせ私の地元には文化がない。若者が着る服なんかどこにも売ってない、ライブハウスとかクラブとかない、誰もヒット曲以外聴いてない、そんな感じの街で育ってるから。
 しかし東京の大学に入って、同級生を見て、私は予想と逆方向に裏切られたんだ。
 東京育ちの子に、びっくりするほどモッサリした子が多い! これには本当に驚いた!
 いやもちろん全員じゃないですよ、めっちゃオシャレな東京の子もいましたよ。しかしそれ以上に、「全くオシャレとは思えない東京育ちの子」が存在する、ということに私はびっくりしてしまった。麻布に実家があるのに、全然化粧っ気がなく、小学生が着てそうなトレーナーを平然と着ている子がいる。高円寺生まれ高円寺育ちなのに、親が買ったとおぼしきスカートをはいてる子がいる。マジか!?
 それと、とてもセンスがよくてマネしたいなぁと思う子に、東北や四国など、けっこう田舎のほう(と言っちゃ失礼ですが)に実家がある子が多かったのにも驚いた。
 地方生まれ地方育ち、別に親が金持ちってわけでもなさそうな、ずっと公立校で進学してきて大学で初めて上京してきた子が、最初からそれなりにオシャレで、上京後にさらに実力を伸ばしていく。東京に対するてらいも買いかぶりもあまりなく、ナチュラルに雰囲気を受け入れて、ローカル民としてのコンプレックスなど感じさせない跳躍力で「今は東京人です。でも地元も好きです」みたいな顔にすぐなっていく、そういう人がいる。私に映画のことをよく教えてくれた友人は静岡と山梨の人で、音楽のことをよく教えてくれたのは東北のかなり奥まった村の出身だったな。
 いやこんなの、たまたま私の周りにそういう子が多かっただけと言われりゃそれまでなんですが……、でも、いるでしょ?
 よく「東京育ちと地方育ちでは文化資本が違いすぎる」と言って、それを憂いたり嘆いたりする話を見る。特に、地方でわりといい暮らしをしている人とか、地方で飛び抜けていろんなカルチャーを知っているつもりでいた人が、都会に出て「自分なんて大したことなかった」とショックを受ける、という文脈でそういう話が出てくる。
 それは間違いではないと思う、一定数そういうことはあると思う。
 でも、私の経験からすると、文化とかオシャレさとかに関しては、地方に住んでいるうちにずいぶんと燃料を積んでおける。そして、けっこうな勢いで追いつける。逆に、東京に生まれ育って、近くにいろんな誘惑やら娯楽があったとしても、超然としてそれに一切染まらないという人もいる。
 努力で何でもできるってわけじゃないけれど、自分の育った環境がイマイチだったからいろんなことに踏み切れなかった、という言い訳はそんなに通用しないかもしれないぞ、ということを、私は東京生活の早いうちにひしひしと感じていたのでした。
 ちなみに私の中の「優勝」は、前回書いた、後輩ながら新鋭ブランドの話を喜々として語ってきた子。高知の山奥の、南国・土佐なのに雪が降るという、分校しかないようなところの出身の子でしたねえ……(何の優勝なんだ)。

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Illustrator/Takayuki kudo


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