能町みね子連載「かわりばえのする私」vol.12 をla farfa7月号の発売日と同時公開!

かわりばえのする私 vol.12

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 この連載をやっていくにあたって、ずっと引っかかっていることを一つ消化しておきたい。
 服を売っているお店、なんて呼ぶのがいちばんいいんですか?
 「ショップ」? ファッションの文脈じゃなかったら、何のショップか分からないですよね。「アパレルショップ」とか? なんか長ったらしいし、どこかモッサリしてますね。「ブティック」は死語っぽいし、もはやイメージが違う。となるともう、「服屋」? かなりぶっきらぼうな感じがするけど、これがいちばん色がついてない言葉だからいいのかなあ。
 ファッション業界、言葉がすぐに時代遅れになるから困るんだよ。私は服を売っているお店については「服屋」とか「服屋さん」で行きますね。行きますからね! この言葉についてはもう、異論は認めない!!めんどくさいから!
 あと、なんなら「オシャレ」って言葉にも、私はずーっと一抹のダサさ(こんな日本語はないが)を感じている。ファッション誌で「オシャ○○」って用語が出てきたりとか、ちょっと言葉の形を変えようとしてる時点でみんな少しダサいって思ってる証拠でしょ?
 そして「ダサい」って言葉ももしかしてちょっとダサい? って不安になってたりもするんですけど、この調子では自縄自縛状態に陥って言葉が何も使えなくなってしまう。「オシャレ」と「ダサい」はこの連載では使っていきますからね! このへんについては自意識と訣別!
 ……で。話は私の大学入学頃、古着をやっと買い始めた頃に戻るのだが。
 しかしまあ、思い返してみると、私は友達と行動していないな、と気づく。
 高校から大学にかけて、決して友達がいなかったわけじゃないのに、友達と一緒に服を買うということをしたこともなければ、そうしようと考えたこともなかった。誰かを誘う気もなかったし、誘ってくる人もいなかった。
 これはなぜかと考えると……本当は考えたくないんですよ。すごく恥ずかしいことに思い当たるんですよね。
 私はどこかのお店に行けば行ったで「自分が超ダサい人間に見えているはず」と思ってビクビクしていたくせに、たぶん周りの友達よりはちょっとはセンスがよくてオシャレなはず、って変なプライドを持っていたから……だと思うんですよね!
 ああ。恥ずかしい。
 このマズい病気は、この頃から数年経てちゃんと解消したから許してほしい。
 もっと踏み込んで書けば、内心、オシャレだなと思う子だって近くにいた。でも、そういう子とはそんなに仲良くなれなかったし、まして「服を買いに行くのにつきあってほしい」なんて言う勇気はなかったのだ。そして、あんまりオシャレじゃないな、と思う子とばかり友達になってたんだよね。
 いや、別に友達を見下していたとかそういうことじゃねえんだよう。ふつうに仲良くなるべくして仲良くなった子がそういう子だったんだべよう。わしゃあ全然東京の街になじめてなかったんじゃあ。背伸びしてオシャレな子と仲良くなって自分の田舎もんっぷりがバレるのも怖かったんだず。卑屈な一面も幅を利かせているくせに、10代のオラのプライドは学生寮の塀より高かったとですたい。
 許してほしいあまりいろいろな方言が出てしまった。とにかくその頃の私はオシャレについては徹底して単独行動だったのである。
 このことは、どっからどう考えてもいいことじゃなかった。誰かと一緒なら入りづらいお店にも入れるし、服を買う時も客観的目線が増えて絶対にいい。服を買ったあと、喫茶店とかに入って反省会(?)もできる。服を買うのにつきあってくれる友達がいるなら、ぜっったいに友達と行ったほうがいい!
 ただ、友達が思い当たらなくて単独でしか行動できなかったとしても、意外とどうにかなるのも事実である。つまり、一人でファッション経験値を上げることも、できないわけではない。
 そんなわけで、私は大学生になって、一人で街を歩きながらまず古着を買うということを覚え、少しだけ慣れました。古着のレトロ感やヴィンテージ感を愛しているというわけではなく、入りやすい店があったことと、安かったという理由による消極的古着です(私がさらっとふつうの新品のあるお店に行けるようになるにはさらに数年を要するのである)。
 「古着ならいける」と味を占めた私は、テントのお店の向かいにあった、ちゃんとドアのある(当たり前だ)古着屋さんだったら入れるようになりました。今もある、下北沢の「シカゴ」というお店。ここのドアはいつもばーんと開いていて、店外にも古着がたくさん並んでいたので、入りやすかったのだ。
 しかし、私にはこの頃、ずっと引っかかっていることがあった。
 私は「ブランド」というものを何も知らない……ということである。

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Illustrator/Takayuki kudo


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