能町みね子さん連載「かわりばえのする私」vol.5を@la farfaで先行公開!!

Illustrator/Takayuki kudo

かわりばえのする私 vol.5

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 テレビに出たりしてるから、私のことをうっかりオシャレだと思ってくれる人がいるかもしれません。
 種明かしみたいで申し訳ないんですが(というか大半の人は知っていると思いますが)、残念ながら私がテレビに出る時の服は、ほぼすべてスタイリストさんが揃えてくれています。
 もっと私のことを知ってくれていて、私にとても好感を持ってくれている人だとしたら、いえいえ私服もオシャレですよ、と言ってくれるかもしれません。
 しかし、私は自信なんか全然ないんです。私は、ちゃんとした「ファッション道」を踏まえないで来てしまった気がしています。
 だって、こうしてファッション誌に連載させてもらっているというのに、私は10代~20代の頃あまりファッション誌を読んでこなかったし、流行なんて特に把握してこなかったし、ただただ自分が好きなものを着てきたらこんなふうになってしまったんですもの。
 ……なんか、カッコつけてますかね。好きなものを着てきたらたまたまオシャレになっちゃったんだよねみたいな?
 いや、別にそういうことが言いたいわけではなくて。
 20代後半〜30代くらいになると、私にとってファッションは楽しいものになってきました。でも、最近また難しくなってきたんです。そこでふと、そういえば私はどういうふうにファッションという「敵」に向き合ってきたんだっけな、と、40歳を越えて改めてちょっと考えたくなりました。
 「敵」なんて書いてしまった。そうなのだ、私にとってファッションは乗り越えるべき「敵」だったのだ。何が何だか分からなくて、恐ろしい敵。
 何がオシャレか、何がダサいか、なんてことを具体的に考えていたわけでもないのに、小中学生の頃の私には「自分はダサいに違いない」という強固な思い込みがありました。だって実際、私が住んでいた北関東のベッドタウンなんて、服を買えるのは駅前のスーパーくらいしかない。いまみたいに条件のいい通販なんかないし、電車に乗ってどこかの街に服を買いに行くなんてハードルが高すぎる。服を自分で選んでないんだから、オシャレなわけがない。
 北関東というのは厄介なところで、東京が中途半端に近いんです。渋谷だって原宿だって普通列車で片道1時間半だから、まあ遠いといえば遠いけれど、飛行機や新幹線や特急に乗る必要すらなく、無理なく日帰りで行けちゃう。
 小学5年生のときのある日、クラスの中でもわりと騒がしくて目立つ感じの女の子3人組が派手目のパーカーやショートパンツをお揃いで着てきたことがありました。なんと彼女らは「3人で原宿行ってきたんだ~」なんて言っているではないか。私は恐れおののいた。なんちゅう恐ろしいオナゴじゃ、あんな流行最先端の、はちゃめちゃに光線と騒音にあふれ、幼子を誘惑する鬼がのさばり、うきうきで試着室で着替えてたら床が落ちて、地獄の組織で一生肉体労働させられるような場所に子供だけで行くなんて!くわばらくわばら、たたりじゃ、村に呪いがかかるぞ!と。
 中学に進学しても私はあいかわらず「オシャレ」「ファッション」という言葉とは一線を画していました。いや、もちろんどうにかして「オシャレ」に手を伸ばすことはできないかしらと内心思ってはいましたが、何か買いに行く勇気もなければ、オシャレな友達も親しい先輩もいない。仕方がないので、学校は制服やジャージがあるからまあいいかと甘え、自宅やごく近所ではお母さんがスーパーで買ってきたてきとうなトレーナーなんかを着て、人目につかないようにしていました。
 ある日、私が何かやむをえない家族関係の用事で学校を早退した日に、友達が自宅に何かを届けに来てくれたことがありました。私は特に病気というわけではなかったので、玄関先に出なければ不自然です。しかし私はそのとき、外に出ていくのもためらうような、袖と胸より上がボルドー色で、胸より下は深緑色で、色の切替部分の真ん中になんか変な英字の書かれたワッペンみたいなのが貼ってある、当時ものすごくダサいと思っていたトレーナーを着ていたのです。
 着替えるわけにもいかない(着替えたところで大した服はない)ので、私はなにくわぬ顔で玄関先に出た。ちょっと話して何かを受け取って、ふつうに友達は帰った。
 あーーーー、絶対「めちゃくちゃダサいトレーナー着てる」って思われた……。
 やだー……あー!やだーー!やだ!たぶんお母さんが駅前のスーパーで買ってきたんだよこのトレーナー、やっぱりめちゃくちゃ嫌だ、なんでこんな上も下もくすんだ色で変なワッペンまでついて形もモッソリしてるものを甘んじて着ちゃってたの……絶対ダサいトレーナーで変なワッペンって思われた……うわあああああ!!!
 私は家の中でクッションにブフォンと顔を埋め、窒息するほど押しつけた。ダサいトレーナーを着たまま。
 もちろんその後、このことで友達に何か言われたわけでも何でもない。たぶん友達は一切気にしてない。
 しかし、私はこのダサいトレーナーを、40をこえた今になっても覚えているのである。私があんまりよろしくないオシャレ第一歩を踏み出したのは、「ダサい服を着てると恥ずかしい」と強烈に思ったこの瞬間なのである、おそらく。
 この時点でたぶん中2くらい。当時さすがに客観的にもダサかったであろう私のオシャレ茨道は次回に続きます。

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Illustrator/Takayuki kudo


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