能町みね子さんの本誌新連載「かわりばえのする私」を@la farfaで先行公開!!

2020.05.20

Illustrator / Takayuki kudo

かわりばえのする私

 コロナコロナで真っ暗な世の中なもんで、40歳を越えた私の心のなかは意外にも政治に対する怒りで満たされちゃったりしてるんです。なんか、これって健康だよね。悶々と自分のことばかり考えて思い悩んでいたときより、偉そうな人のことで腹を立てているほうが実はよっぽど体にいい。自分のことを思い悩むのは、二番目に体に良くないと思う。いちばん体に良くないのは何か?それは手洗いうがいをしないことです。みんな手洗いうがい、しよう!
 そんなわけで、この連載は40(正確には今41)になった私が、不惑を迎えて実際どう変わったのよ?ということを綴っていく連載のようです。ようです、というのは、編集さんがそういうのを書いてね、っていうので、じゃあそうしてみます……と引き受けてしまったものです。
 40ねえ。40。これ読んでる方のほとんどは40に到達してないですよね。
 40……何もしなけりゃ大して変わんないんですよマジで。変わんないから、むしろ変えてみようとしたり、わざわざ小さなことを取り上げて「変わったなあ」と思おうとしています。
 やっぱり40になって大きく変わったことといえば、猫を飼い始めたことでしょう。私も動いたね。自ら変えに行ったよ、人生を。
 なぜ、猫飼いたくなったんか。
 もともと猫は好きなのです。ただ、実家でもペットというものを飼ったことがなかったし、私はいつも家にいなくてほっつき歩いてるから、責任を持つ自信がなくて、飼うという選択肢は考えなかった。
 ところが、私は夫(という名の同居人)と住むようになったので、家に誰もいない時間は少なくなったし、自宅とは別に構えた仕事場のビルの玄関のとこにペロペロニャンニャン号という(「という」じゃねえわ、私が勝手に名付けたんだ。三階在住のおばあちゃんはミーヤとか呼んでた)汚い半ノラの猫が居ついていて、その子がえらい人懐っこくて、にゃんにゃん鳴いてはいつも手をペロペロしてくるので、ぎゃーー!飼いたいーーー!という気持ちが日々募り、でも三階のおばあちゃんが餌をやっちゃってるこの半ノラを連れて帰るわけにもいかないし、モヤモヤしながら周囲に猫飼いたい飼いたい言ってたら、なんと母から、知人の知人が今流行りの「多頭飼い崩壊」になって引き取り手を探している、という情報が入ったのだ。そのうちの一匹の写真が送られてきたら、これがまーかわいいいいい。やばい。超かわいい。もうやばい飼うしかない!
 となったわけです。愛ゆえに経緯が長くなりました。
 そんなんじゃなくて、本題は猫を飼ったことによる「変化」の話をしたかったんだ。
 まず、責任、です。責任について考えてしまいます。
 今までそうか自分は責任というものからなるべく逃避して生きてきたんだなあ、って思えたのです。だから40になっても特に何も変わんないような気がしていたのだ。
 子供を持つのなんか、超・責任じゃん。超すごい。猫くらいの責任でもう私は手いっぱい。猫=ほどほどの責任。
 もちろん、飼うからには健康に気をつかうし当然せいいっぱい愛するんだけど、現在うちの小町(といいます)は2歳で、猫って2歳の時点でもう昼間ずーっと私が家にいなくてほったらかしててもまず問題ない。40歳が負うにはだいぶ軽い責任だけど、責任初心者の私にはぴったりです。
 私は今まで逃げてきたけど、もしかしたら人は年を取ると責任を負ってみたいものなのかもしれない。
 一人暮らしのときは自分がどうでもよすぎて、家事もほとんどしないし、別にいつ死んでもいい(これはさほどネガティブな意味じゃなく、「無」みたいな気持ち)と思いながら暮らしていたけど、夫(仮)のほかに猫までいるとなるとさすがにそういうわけにもいきません。
 あまりに自由だと、人はどっちを向いたらいいのか分からなくなりそう。ちょっとだけ束縛されたい、っていう希望はおかしなものじゃないでしょう。
 猫は、ちょっとだけ自由を奪ってくれる。ちょっとだけ言うことを聞かない。人間の子供ほどじゃないけど、猫がいると勝手に物を落とされたり、仕事したいときにかまってかまって言ってきたり、ちょっとめんどくさくなることがある。しかしそのめんどくささこそ、実は私がほしかったものかもしれないんだ。この子のために何かしなきゃいけないとか、この子が何か余計なことをして少し腹が立つとか、そういう予測不能や不可抗力を40の私はついに求めはじめてしまった。
 これを書いてる今もすぐそばで猫が寝ている。最近はコロナのせいで家からほとんど出られなくなってしまって、この現状はさすがにストレスフルだけど、そんななかで適度な束縛をくれる猫が、痛気持ちいいマッサージくらいの重みで家にいてくれる、それがいい。ああこれは私は変わったね、確実に変わった。


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